将来、2023年は「生成AI普及の年」と紹介されるでしょう。
2022年11月に公開された米国OpenAI社のChatGPTは、公開から2週間で世界中の1億を超えるユーザーに利用されました。この普及速度はTikTokやInstagramを大きく越えるものでした。
ChatGPTは、生成AIの代表格。チャット形式で質問すると「裏で人間が回答しているのではないか?」と思えるほど自然で流暢な文章を短時間で回答してくれます。
これまでAIというと、SF映画のイメージが強いものでしたが、すでに川崎市や横須賀市では庁内の業務にChatGPTの導入が始まっています。
このように、私達の生活の中に広まりつつある生成AIですが、Webライターの視点で考えると、
- 生成AIの活用により、働き方はどのように変わるのだろうか
- 生成AIの普及により、Webライターの仕事を失うのではないか
といった期待や不安を感じることでしょう。
この記事では、生成AIの特徴を紹介した後、生成AIが普及していく時代にWebライターが適応していく働き方・考え方について解説します。
是非、最後までお読みください。
生成AIの特徴|ChatGPTについて
ここでは、生成AIの特徴について、ChatGPTを例に整理します。
特徴1:質問に対する回答をAIが生成する
ChatGPTの大きな特徴は、チャット形式の質問に対して、AIが自動的に回答を生成することです。
ChatGPTの”GPT”は、”Generative Pre-trained Transformer”の略であり、生成AIと呼ばれる生成は”Ganarative”から来ています。
GPTの意味を機能の視点から超訳すると以下のようになります。
「膨大な文章を学習した情報にもとづいて(Pre-trained)、質問された文章の続きを予測しながら(Transform)、回答を生成する(Generative)」
そして、この超訳を例え話で表してみましょう。
小さい頃に昔話を聞かされて育った方は「むかしむかし」と聞いたら、その後には「あるところに」と続くと思われるはず。さらに「おじいさんとおばあさんが住んでいました」と続くと思うのではないでしょうか。
この例では「むかしむかし」が質問にあたり、「あるところに」「おじいさんとおばあさんが住んでいました」が生成AIによる回答にあたります。このように、ChatGPTを始めとする生成AIは「質問文のあとに続く文章を繰り返し予測して作り出している」と考えれば分かりやすいでしょうか。
特徴2:流暢な文章での回答
ChatGPTが短期間に多くのユーザーを集めることができた背景には、質問に対する回答の自然な文章表現や、質問の継続的なやりとりが挙げられます。
実際に利用すれば感じてもらえると思いますが、ChatGPTとの極めて流暢なやりとりは、私を含めた多くのユーザーが惹かれる要素です。
ここで、ChatGPTを用いた資料の作成例を示します。ここでは社内メールでの会議開催案内の原稿案を作成します。
■ChatGPTへの指示:
■ChatGPTからの回答:
この例では、3行の指示と掲載情報を###で分けて入力しただけで、これだけの文量の会議開催の案内文を生成しました。
しかし、会議開催の案内としては文章の体裁がうまく整っていません。ここから先は、自分で手作業で修正するか、ChatGPTに細かな指示を出すことでより品質の高い回答を得ることになります。
冒頭で示しました横須賀市では、より質の高い回答を得るために、有償版のChatGPT Plusの導入を進めるそうです。
特徴3|生成AIの学習結果を活かしたストーリーやアイデアの提案
ChatGPT等の生成AIは、学習結果による文章の作成とともに、ストーリーやアイデアの提案も可能です。一例として、SF小説の概要を書いてもらいました。
■ChatGPTへの指示:
■ChatGPTからの回答:
たった3行で物語の設定を示すことで、これだけのストーリーの概要を書いてくれました。
ChatGPTの膨大な学習データの中には、ヒーローズ・ジャーニーと呼ばれる物語形式についての情報が含まれているのでしょう。
さらに、物語に深みを持たせるため、シナリオに追加設定をお願いしました。
■ChatGPTへの指示:
■ChatGPTの回答:
あたかもハリウッド映画にありそうなシナリオになってきましたね。
このように、自分のアイデアを生成AIに入力することで、アイデアの具体化や、アイデアの拡張案を提示してくれます。
特徴4|AIとしての回答の質が高い
ChatGPTを始めとする生成AIの歴史は、GPTを構成する要素技術の進化により、自然で流暢な文章を短時間で回答できるようになりました。
その結果、現在のChatGPTは、米国の医師資格試験で合格レベルの回答を叩き出すとともに、日本の医師国家試験でも合格ラインを超える回答を示し、極めて優秀な能力(性能)を示すまでになっています。
これまでのAIサービスとして注目されていた車載用音声認識システムと比較しても、生成AIができることは大きく進化していることが分かるでしょう。
生成AIの特徴をまとめると、以下のようになります。
- 数行の指示で指示の意図を理解して文章を作成できる
- 自然で流暢な文章表現で回答を提示する
- 生成AIの学習結果を活かしたストーリーやアイデアを提案できる
- 回答に対する修正にも対応できる
- AIとしての回答の質が高い
具体的な指示に対して(一部修正が必要ですが)、高度で流暢な回答を自動生成する生成AIは、これからの私達の生活の中に広まっていくことでしょう。
Webライターの仕事はなくなるのか?
Webライターの視点で生成AIが出力するストーリーの構成案を読んでみると、
- 生成AIの活用により、働き方はどのように変わるのだろうか
- 生成AIの普及により、Webライターの仕事を失うのではないか
といった期待や不安が生じるのは理解できます。
私は、生成AIがさらに高度化し広く普及した社会を考えても、記事を執筆してクライアントに提供するというWebライターの仕事自体はなくならないが、Webライターとしての働き方は大きく変わっていくと考えます。
その理由は以下のとおりです。
- 働き方の変化:生成AIの活用により、業務の効率化が進められるでしょう。
- なくなる仕事:単なる「作文業務」については、生成AIへの移行がしやすいため、人間の仕事ではなくなることでしょう。
- 増える仕事:Webライターには、専門的なスキルが求められる記事や、感情に訴えかけるような記事といった、生成AIで書けない記事が求められるでしょう。
これらの項目について、Webライターが生成AIを活用するベネフィットとリスクという視点で以下に整理します。
Webライターが生成AIサービスを活用するベネフィット
生成AIが得意とする「文章の生成」や、「ストーリやアイデアの提案」は、Webライターを始めとするライター業の方にとっては、記事原稿の執筆に活かせます。
ここでは、Webライターが記事執筆時の作業手順を整理し、それらの作業の中で生成AIを活用するベネフィットについて整理していきます。
Webライターが記事執筆時の作業手順
Webライターが記事を執筆する際の一般的な手順を示します。
- 公開記事の調査:指示されたトピックやキーワードを用いて書かれた公開記事をインターネット検索で検索し、どのような内容の記事がどのような構成で書かれているか調査します。
- 記事が対象とするペルソナの設定:記事原稿の事前調査結果から読者層を特定し、それらの読者が抱えている悩みや、検索により求めている答えを整理します。
- 記事構成の作成:読者のニーズを理解した上で、記事構成(章立て)を作成し、自分が記事を執筆する上で必要な情報を調査します。
- 本文の執筆:記事構成が決まり、追加情報を入手・理解したところで、本文を執筆します。
- 原稿の見直し・校正:執筆した記事を読み返し、分かりにくい部分の修正(質の向上)や、誤字・脱字などの校正作業を進めます。
- 文章の修飾・提出:最後に記事の文章を修飾し、再確認した上で提出します。
これらの手順のうち、生成AIの活用効果が大きいものは、以下の3点です。
- 記事構成の作成
- 本文の執筆
- 原稿の見直し
各項目について以下に示します。
ベネフィット1|記事構成の作成での記事執筆効率の向上
生成AIを活用することで、Webライターが手作業で進めていた記事構成の作成は大幅な効率向上が期待できます。
まず、記事テーマについてのSEOキーワードを設定し、関連するサイトの見出しを抽出します。これらの抽出した見出しをChatGPTに指示とともに設定します。
この例では、SEOキーワードを50代、起業としました。
■ChatGPTへの指示(抜粋):
■ChatGPTの回答(抜粋):
ChatGPTで生成された記事構成をチェックします。このとき、記事の内容や文字数の見通しを整理しながら、見出しの集約や修正を進めることで作業を完了します。
生成AIを活用することで、記事構成の作成時間の短縮と半自動化を得ることができました。そして、あなたは自分の自由な時間と体力というベネフィットを獲得しました。
ベネフィット2|本文の執筆での記事執筆時間の短縮
生成AIにとって、文章の執筆は得意なサービスのひとつです。特に、SEO(検索エンジン最適化:Search Engin Optimization)や読者層に合わせた表現も、得意な分野のひとつです。
ここでは、先ほど作成した記事構成に本文を作成する例を示します。
■ChatGPTへの指示(抜粋):
■ChatGPTの回答(抜粋):
ここでは記載を抜粋していますが、放っておけばひとりでに記事の執筆をしてくれます。
注意点として、無料版ChatGPTを使用している場合、次第に指示を忘れ、記事の内容がブレることがあります。そのため、本格的にChatGPTで記事執筆を進める場合には、
- 見出し単位で依頼する
- 草稿を依頼している意識で利用する
- 有料版ChatGPTを利用する
ことをおすすめします。
とはいえ、記事構成にあわせてゼロから書き始めるよりも効率的であり、執筆時間の短縮というベネフィットにも繋がります。
ベネフィット3|原稿の見直しでの記事の質の向上
記事構成に沿って原稿を執筆した後、生成AIによる原稿の見直しも可能です。ここでは、ChatGPTを用いた2つの方法を示します。
(1) ChatGPTが生成した記事に対する修正
この例では、分かりやすい記事の書き方のひとつであるPREP法に沿った書き方への修正を依頼しています。
■ChatGPTへの指示:
■ChatGPTの回答(抜粋):
このように、生成した記事に対してPREP法に沿った構成で見直すことで、より分かりやすい内容になります。
この例の場合では、PREP法の適用を優先したため、セクションの情報が抜け落ち、修正前の文章よりもあっさりとまとめられています。
このように、生成AIに記事修正を支援してもらうことで、ライター独自の視点で文章に肉付けに集中できるため、記事の品質を高められます。
(2) 記事を深掘りしていく
生成AIが出力する記事は、説明的な文章が多くなりがちです。その理由は、生成AIが出力する文章は、これまでの学習結果に基づくものであるため、読者の課題を解決できる文章が得られるとは限らないからです。
このような場合、記事を深掘りすることで、記事内容の深みを増すことで、質の高い文章に修正することが重要です。
記事の深掘りは、生成AIが事前学習(Pre-training)した結果を活用する方法のひとつです。以下にライターが記事の内容について深掘りした例を示します。
■ChatGPTへの指示:
■ChatGPTの回答(抜粋):
ライターが記事の内容を深掘りしようとした場合、疑問に湧いたことを愚直に問い続けることが重要です。
しかし、仲間と深掘りをしようとした場合、自分自身のプライドが邪魔をして「相手に聞きたくても聞けない」と躊躇してしまいがちです。
しかし、生成AIは質問を繰り返してもきちんと回答してくれます。
深掘りにより、ライター自身が記事の執筆テーマおよび読者が求めていることへの理解をより深めることで、結果的に読者に喜ばれる質の高い記事が提供できます。
応用例|セールスライティングへの対応可能
Webライターのライティングスキルと生成AIの膨大な学習結果に基づいた知識を活用することで、Webライターでもセールスライティングまで手を広げることができるでしょう。
生成AIは、学習データの中にセールス文章やPR文章も含まれているため、製品やサービスの特長や利点を強調した説明文の作成が可能です。また、顧客に説明する際に求められる魅力的なセールスコピーの作成にも役立ちます。
ここでは「50代からでも始められるライティング講座」という架空の講座を販売するための販売ページ(LP)を作成してみます。
■ChatGPTへの指示:
■ChatGPTの回答:
ChatGPTを使うことで、販売ページ(LP)の構成が作成できました。記事の構成だけではなく、簡単な本文やCall to Action(読者に行動を起こさせるためのフックとなる文章)、フッター、デザインなどの項目まで回答してくれました。
この構成を活かして、ChatGPTを使って販売ページを作成することも可能ですが、生成された記事はどこか味気ないのも事実。
特にセールスページの文章は、読者に購買意欲をかき立てる必要があるため、感情に訴える表現が必要になります。
このような読者に訴えかける文章表現は、Webライターの方が得意な部分ではないでしょうか。
生成AIの文章生成機能と、Webライターのライティングスキルをかけ合わせることで、より想定購入者の心を動かすようなセールスライターへの道を歩み始められると思います。
Webライターが生成AIサービスを活用上のリスク
Webライターにとって、生成AIの活用はベネフィットも多い一方で、依存した場合のリスクも大きいと考えます。
特に、生成AIが生成する文章は、質問に対して流暢な文章で回答されるため、Webライターでなくとも、そのまま利用したくなります。
しかし、そのまま利用することにリスクはないのでしょうか。
この記事では、生成AIのライティング業務への利用は、作業支援で留めることを推奨します。特に、生成AIには、学習データの生成タイミングと学習に使われるデータに制限があるため、以下の課題が挙げられます。
- 学習データ生成時の情報に制限されるため、最新情報に疎い
- 出力結果の正しさを示すこと(証拠の提示)が難しい
- 同じテーマの他サイトの記事との重複のおそれがある
これらの課題について、整理していきます。
リスク1|学習データ生成時の情報に制限されるため、最新情報に疎い
生成AIサービスが生成する文章は、質問に対して流暢な文章であるため、そのまま利用したくなります。しかし、そのまま利用することに問題はないのでしょうか。
学習結果に基づき結果を出力するAIサービス全般には、学習データ自体の正しさや、学習データに基づく出力結果の正しさを示す証拠(論拠)の提示の部分について、共通の課題があります。
Webライターに限らず、記事を執筆する立場にある方にとって、記事内容の質的な正しさや表現の分かりやすさは、執筆者自らが保証する必要があります。
過去に、インターネット上の匿名化された公開データに基づいて学習したAIチャットロボットが公開から16時間でサービスを停止したことがありました。チャットロボットの公開後、AIがユーザーとの会話中で問題となる内容を学習し、その内容をAIチャットロボットが他のユーザーに回答したことが原因でした。
情報の正しさを確認せずに記事に掲載し、その記事が何らかの問題を生じた場合には、Webライターとともに掲載メディアの信用も失うことになるでしょう。
特に、組織や固有名詞については、学習時点で入力された情報に制限されるため、どうしても情報の新しさや正確性を保証することが難しい例のひとつです。
Webライターは「自分が執筆した記事への責任が持てる範囲で、生成AIサービスを活用する」という意識が重要です。
リスク2|出力結果の正しさを示すこと(証拠の提示)が難しい
生成AIを含む、AIを活用するサービスには、学習データ自体の正しさや、学習データに基づく出力結果の正しさを示す証拠(論拠)が難しいという課題があります。
理由は、生成AIのAIエンジンは、質問事項に含まれている言葉から回答となる情報を予測して生成しているという特徴に他なりません。
Microsoft社が提供しているBingでは、最新情報の担保や、出力結果の論拠を提示する手段として、ChatGPTと検索エンジンの回答を連携させて提示しています。
具体的には、Web上の記事を参照情報として提示する手法を提供していますが、すべての証拠が明確に示されるとは考えにくいです。
Webライターに限らず、記事を執筆する立場にある方にとって、記事内容の正しさや表現の分かりやすさは、執筆者自らが責任を持つ必要があります。
リスク3|同じテーマの他サイトの記事との重複のおそれがある
Webライターは、他サイトの重複を避ける上でも、生成AIの回答をそのまま記事にしてはいけません。
生成AIが普及後のWebメディア記事や個人Blog記事には、生成AIを活用した文章が増えることが予想できます。
さらに、記事内容の重複リスクとともに著作権侵害のリスクも否定できないでしょう。
事実、日本の出版会社でAIが生み出した女性モデルのグラビア写真集が販売中止となった事例があります。
この事例は画像生成AIによるものですが、ChatGPTのような文章生成AIにも同様の課題はあると考えておくべきです。
そのため、Webライターの記事を掲載するWebメディアには、他サイトとは違う視点での記事内容(オリジナリティ)がこれまで以上に求められます。
生成AIの普及が進むことで、生成AIに頼らずにWebライターが執筆したオリジナル記事が求められるという、逆転現象が起こることも考えられます。そのように考えると、Webライターは楽をしても、最後までオリジナリティを放棄してはいけません。
まとめ
ChatGPTを代表とする生成IAは、これまでのAIサービスにあった単語レベルの曖昧さを理解するレベルから、自然で流暢な文章で回答を提供するレベルに大きく進化しました。
生成AIは、適切な指示を示すことで、文章の生成や、指示に基づいたストーリの構成案の提案、新たなアイデアの生成などの活用が期待できます。
その一方で、最新情報への対応に制約があったり、長文を生成した際の文章の一貫性や関連性がまだ担保できていないなどの課題も多くあります。
本記事では、Webライターの執筆を例に、生成AIを利用したベネフィットとリスクを整理し、働き方・考え方について紹介しました。
Webライターの場合、生成AIの出力結果をそのまま記事原稿に適用することは避けるとともに、Webライター自身のスキルを生かした分野の記事執筆で活躍していくことが大事になります。
これらのことは、生成AIを私たちの仕事や生活にうまく活用するうえでも同様です。成果をアウトプットする主体はユーザーである人間であり、生成AIを「助手」や「副操縦士 (Co-pilot)」の意識で利用することが、それぞれの存在意義を示すことに繋がります。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。